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東京地方裁判所 昭和39年(むのイ)365号 判決 1964年7月08日

被請求人 北崎甲三

刑の執行猶予取消決定

(被請求人氏名略)

右の者に対し、東京地方検察庁検察官から適法な刑の執行猶予の言渡取消請求があつたので、当裁判所は、被請求人の意見を聴いて左のとおり決定する。

主文

長崎地方裁判所大村支部が昭和三六年一二月一三日被請求人に対する暴行恐喝被告事件につき言渡した刑(懲役一年四年間刑の執行猶予保護観察付)の執行猶予の言渡はこれを取消す。

理由

一  本件刑の執行猶予の言渡取消請求の要旨は、

「被請求人は、昭和三六年一二月一三日長崎地方裁判所大村支部において、暴行恐喝罪により懲役一年四年間刑の執行猶予及び保護観察の言渡を受け、右判決は昭和三六年一二月二八日確定したが、

1  右猶予の期間さらに罪を犯し、昭和三八年一二月二五日墨田簡易裁判所において傷害罪により罰金一万五千円に処せられ、右裁判は同三九年二月一五日確定し

2  保護観察の期間内に住居職場を転々とし不安定な生活を続け、その間飲酒のうえ保護司を脅迫したり、同僚その他に暴力を振るい傷害を与えたりし、ために近隣の者は被請求人の暴力を恐れ親戚に難を避け、或いは夜間外出を差控える等のやむなきに至つている、これは保護観察の期間内に遵守すべき事項を遵守せずその情状が重いときにあたるから、保護観察所長の申出に基き前記執行猶予の言渡の取消を求める」。

というのである。

二  一件記録によれば、

1  被請求人が昭和三六年一二月一三日長崎地方裁判所大村支部において暴行恐喝罪により懲役一年四年間刑の執行猶予及び保護観察の言渡を受け、右判決は同月二八日確定したこと

2  右猶予の期間内更に罪を犯し、昭和三八年一二月二五日墨田簡易裁判所において傷害罪により罰金一万五千円に処せられ、右裁判は同三九年二月一五日確定したこと

がいずれも認められる。

次に一件記録ならびに求意見に対する被請求人の回答書によれば、被請求人は昭和三六年一二月長崎県大村市において養豚業に従事していたが、同三八年二月一〇日静岡県富士市に移り熊谷組に土工として働き、同年三月久留米市に転じ、更に同年一〇月上京し東京都江東区塩崎町に居住し土工として働き、同三九年三月近藤畜産株式会社に就職し肩書住居に居住するに至つたことが認められ、住居職場ともに不安定な生活を送つていたことが認められ、又右移転については必ずしもあらかじめ保護観察所長に届け出ていないことが認められるが、概ね事後において届け出をしていることも認められるので、これをもつて遵守事項を遵守せずその情重きときに該当するとまでは認めることはできない。

次に、一件記録によれば、被請求人は保護観察期間内に前記の如く傷害罪で処罰を受けた外富士市において土工として稼働中、稼働先に被請求人の前歴が判明したのは担当保護司の責であるとして、飲酒の上他数名と共に保護司宅に押しかけ脅迫したこと、東京都江東区塩崎町において、鹿島建設において稼働中同僚と仕事の上から口論し、同僚に傷害を与えたこと、肩書住居に居住中飲酒の上近隣の湯沢、紺野、斎藤等に対し、短期間内に脅迫、暴行等の所為が度重なつたため近隣の者の中にはやむなく他に難を避け、又は夜間外出を差し控える等の状況にあつたことが認められる。求意見に対する被請求人の回答書、保護観察官の被請求人に対する質問調書によれば、肩書住居に居住中における暴行脅迫については、近隣の者にも責がある旨弁疏するけれどもたとえ、被請求人主張の如く、近隣の者の被請求人を遇する方法にも問題があつたとしても、被請求人は過去において飲酒の上における粗暴事犯が数多く、従つて、保護観察に当つては善行保持の手段として飲酒を慎むよう特に指導されたに拘らず、飲酒のうえ、度重なる暴行脅迫等の粗暴行為に出たことは、善行を保持することとの遵守事項を遵守せずその情状重きときにあたると認むべきである。

三、以上によれば本件は、刑法第二六条の二第一号、第二号にあたり、かつ、被請求人は保護観察によつては更生は期待できないと考えられるから、前記刑の執行猶予の言渡を取消すこととし、刑事訴訟法第三四九条の二第一項により主文のとおり決定する。

(裁判官 牧圭次)

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